横浜の風景

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2020年8月23日

恐るべき子どもたち

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最近、またフランス文学をよく読むようになった。だいたい、夜寝る前や、電車移動の最中に読んでいる。手にしていて一番落ち着くので、いつも文庫本である。

学生の頃はサガンやラディゲを読み耽っていた。もっぱら主役目線である。まだ社会を知らない自分には、統制を知らないままに溢れ出す無数のエゴや情念、暴力的なまでのエネルギーを投影させて美化する場が必要だったのだ。

社会に出ても、勤務弁護士時代は、スタンダールの「赤と黒」なんかを宝塚的に美化しながら読み耽っていた。組織の駒にはなりたくない、頭ひとつ抜け出たい、そう思う一方で、結局は与えられた大量の仕事をひたすらこなしていけば生きていけることに安心感はあって、そういう意味では学生時代と変わらなかったのかもしれない。

子どもが生まれて、独立開業して、すっかり小説を読まなくなった時期があった。僕は馬鹿なので、多くの優秀な人たちがやっているように、面従腹背で組織でしっかり資金を貯めてから独立するということができなかった。自分の美学を何よりも優先した。その結果、誇張なしで綱渡りの時期があった。何よりも稼がないと、生きないと。本当に不安だった。今は「辛くても報酬は神様が決めてくれる」と思ってただ愚直に目の前の仕事に打ち込むようにしているけれど、当時はそんなこと思えなかった。

情念を行動で叩き潰さないと生きていけないと思い、無数のビジネス本や自己啓発本を読み漁った。どれも薄っぺらくて退屈だった。古典の名著を除けば、書き手のエゴと金稼ぎの意図が透けて見えるものばかりだった。そして、古典の名著は、宗教みたいなもので、行き先を照らしてはくれるけれど方法は教えてくれない。当たり前だ。具体的な方法など決まっているはずがないからだ。それなら聖書を読んでいればいい。そんなこんなで、沢山の本を読んで得た答えは、ここに答えはないということだった。

次は、瞑想や禅をしようと思って、色々と本を読んだり食事を変えたりしてみた。どれも辛かった。そんなに自分は真人間ではないのだということがわかった。仕事や対人関係でのストレスでぐちゃぐちゃな自分に対する嫌悪感ばかりが募った。

そんな折、カウンセラーの先生に、フランス映画を見ることを勧められた。とても乱暴に話を要約すると、瞑想とか禅とか、ストイックに走ると自分がおかしいと思って辛くなるけど、フランス映画は(いい意味で)登場人物がみんなおかしいから(笑)、「あ、おかしいのは自分だけじゃないんだ」と安心すると。

先生のアドバイスは効果てきめんで、今、自分のメンタルは安定している。正確には、感情の波はあるけれど、それを当たり前に受け入れて、うまく波乗りできるようになったという感じだ。

その流れで、またフランス文学も読みたいなと思って、色々と読み始めた次第。

最近、ジャン・コクトーの「恐るべき子どもたち」を読んで、心の奥底に綺麗な氷の刃で消えない切り傷をつけられたような心地がして、新鮮な感動をおぼえた。

妻が好きな「ポーの一族」という少女漫画の作者・萩尾望都氏が漫画化していることを知ったので妻に話したところ、妻も興味を持ってメルカリで買ってくれたので、それも読んでみた。

子どもが生まれるまでは興味すら持たなかった「子ども部屋」というテーマ。

子育てをしていると、子どもの美しさやエネルギーを本当に実感する。それは、肌がツルツルだとか、走り回って大変とかそういう話ではない。無邪気さと隣り合わせに、何もかも見透かしたような、大人の作り上げたくだらない社会や世界の綻びに潜む真理を知っているような、そんな表情や態度を見せることがあって、ぞくっとするのだ。

佐々木正美先生などの子育ての本を読んでいても、子どもには親の知らない世界がいくつもあると書いてある。

それがあるから、この「恐るべき子どもたち」の登場人物たちが、まるで気が狂ったように愛し合い憎み合い、罵り合いながら求め合う姿に、驚きはなかった。

問題だらけの親との関わりを絶たざるを得ず、それでいて幸運が重なり金には困らず、統制的な社会からも隔絶された場所で、子どもの美しさやエネルギーが培養されていけば、こんなことになりうるのだと。

ダルジュロスという圧倒的で暴力的な美しさを持った堕天使のような存在への崇拝・憧憬が、冒頭の雪合戦のシーンから最後に毒をのむシーンまで、一貫して貫かれていることに、こういった存在の悪魔的なパワーをひしひしと感じた。

ダルジュロスの名前と、鮮烈な印象は、死ぬまで僕の心から消え去ることはないだろう。

コクトーはアヘン中毒のさなかに一気にこの小説を書き上げたという。きっと子どものように色々なものが見えていたに違いない。


saitoyuta
弁護士

横浜・桜木町を拠点に活動する弁護士。5年3か月の勤務弁護士時代を経て独立開業。一児の父。精通分野は交通事故(被害者側)。

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